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服部 恒一*; 末永 大輝*; 鈴木 渓; 安井 繁宏*
Physical Review B, 108(24), p.245110_1 - 245110_11, 2023/12
被引用回数:0 パーセンタイル:0(Materials Science, Multidisciplinary)通常の近藤効果は、伝導電子と交換相互作用を行う不純物を含んだ金属中で起こり、伝導電子のフェルミ面の存在が重要となるが、フェルミ面を持たない系における類似した現象の解明は近藤効果の基礎的理解のために重要である。さらに、通常の近藤効果は磁場中で抑制されるが、とある条件の下では磁場によって増幅することも起こりえる。本論文では、フェルミ面を持たない系において強磁場の存在に起因する近藤効果を記述するための模型を構築・提案する。この模型では、物質中を伝導するディラック粒子と物質内部で局在する不純物から成る粒子対である「近藤凝縮」を平均場として仮定することで、それを秩序変数とする相図を決定することができる。一方で、ディラック粒子・反粒子の粒子対として定義される「カイラル凝縮」は、クォーク系においては古くから知られた基底状態であるが、相互作用するディラック電子系においても類似した基底状態の存在が期待されている。さらに、ディラック粒子・反粒子間に極小の引力相互作用さえあれば、磁場の大きさに伴ってカイラル凝縮が(一般的には)増幅する現象が知られており、magnetic catalysis(磁気触媒機構)と呼ばれている。このため、本研究ではカイラル凝縮と近藤凝縮との磁場中での競合効果に注目し、この競合効果によって磁場をパラメータとする相図上に量子臨界点が現れることを予言した。さらに、磁場だけでなく有限温度の相図の予言も行った。フェルミ面に起因する通常の近藤効果とは異なり、強磁場のみによって誘起される近藤系はモンテカルロ法における負符号問題を持たないため、モンテカルロシミュレーションによって将来的に高精度の検証がなされることが期待される。
下出 敦夫*; 荒木 康史
Physical Review B, 103(15), p.155202_1 - 155202_8, 2021/04
被引用回数:2 パーセンタイル:17.05(Materials Science, Multidisciplinary)軸性磁気効果(Axial magnetic effect: AME)は軸性磁場がエネルギー流を誘起する、異常輸送現象の一種である。本研究では軸性磁場を含む相対論的ウィルソンフェルミオン、及び捻れのあるディラック半金属の模型において、AMEを数値的に調べた。バルク中ではAMEにより有限のエネルギー流が得られ、特に前者の模型の低エネルギー領域においては、このエネルギー流は場の理論による導出と合致した。その一方、どちらの模型においても系全体で平均すると、エネルギー流は表面の寄与によりゼロとなることが明らかになった。軸性磁場はゼーマン磁場の空間変調として解釈されるため、空間変調したエネルギー磁化を誘起する。本研究で扱ったAMEによるエネルギー流は、このエネルギー磁化に対応した磁化エネルギー流として解釈でき、したがって輸送測定では検出できない成分であると理解される。
下出 敦夫*; 荒木 康史
no journal, ,
Weyl fermionの古典的な作用はカイラル対称性をもつが、電磁場がある場合に理論を量子化すると破れてしまう。これはカイラル量子異常と呼ばれ、異常輸送現象を引き起こすといわれている。Weyl fermionは重イオン衝突実験で生成されるクォークグルーオンプラズマやWeyl半金属で実現しており、カイラル量子異常は高エネルギー物理のみならず物性物理においても重要な概念である。カイラル量子異常による異常輸送現象のひとつに、渦度によって電流が流れるカイラル渦効果というものがある。相対論的な系や対称性が高いカイラル点群に属する物性系は渦度があっても平衡状態にあるが、局所電流は非零であり、直観に反する。実はこの電流はすべて磁化電流であり、輸送実験では観測されないことを示すことができる。本講演では、軸性磁場によってエネルギー流が流れる軸性磁場効果について議論する。相対論的な系ではエネルギー流は運動量に等しいので、軸性磁場効果はカイラル渦効果と相反関係にある。物性系ではDirac/Weyl半金属をひねったり、磁化構造を設計したりすることで軸性磁場を実現することができるが、系は平衡状態にあるのでエネルギー流が流れるとは考えにくい。我々は相対論的なWilson fermionとDirac半金属CdAsをひねった模型を考えた。まず開放境界条件を課して対角化を行い、エネルギー流密度を計算したところ、バルク内部は非零であるが、表面の寄与によって平均的には0になることが見いだされた。一方で、軸性ゲージ場に含まれる座標をパラメタとみなして周期的境界条件を課し、エネルギー磁化および磁化エネルギー流を計算したところ、前述のバルク内部のエネルギー流密度とよく一致した。すなわち、軸性磁気効果によるエネルギー流はすべて磁化エネルギー流であり、輸送実験では観測されない。